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夜の街を歩く人々は、皆、女の事を嘲笑っているに違いない。
彼女は、足早に目的地に向かっていた。
バーの扉をあけると、そこには数人の客がカウンターで酒を飲んでいる。
赤い服の男……
メールにあった、集団自殺のリーダらしき人物を女は探した。
自分の服装は言ってある。
婚約者と一緒に会社の社交パーティに行く時に良く着ていたピンクのドレススーツだ。
私がこの恰好で死んだら、あの人、傷つくかしら……
女は心の闇を隠すように笑っていた。
背後からいきなり男の声がする。
「XXさん……(わたしのなまえだ)」
すぐさま、余所行きの声の準備をする。
振り返ると、いかにも遊び人の色黒な男が立っていた。
「ごめんごめん、おくれちゃって……」
悪気もなさそうな態度で、彼は呟いた。
死にたがっているような人間には見えないけれど、きっと、彼も悩んでいるのね……
「それじゃあ、さっそく奥の部屋に行こうか……、マスター……」
彼が、ワイングラスを拭く白い髭の男に静かに声をかける。初老のバーテンダーは無言で頷いた。
髭の男は、カウンターの奥へと続く、STAFF ONLY と書かれた軋む扉を開ける。
現れた薄暗い階段は、地下にあるバーの更に深くまで続いていた。
男は女を連れて闇の中へと静かに滑り込む。薄闇の中、階段を下りるハイヒールの音が響いていた。
行く先の大きな錠の鉄の扉を、マスターから受け取っていた鍵で開けた男は、そそくさと中へ入って行った。
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