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静寂に包まれた中、やくざの男と向かいあった赤服の男は、自分のこめかみにリボルバーをつきつけたまま動かなかった。
「おい、にいちゃん。自殺志願者だか何だか知らねぇが、こんな金を返さないクズの代わりに死ぬことなんてないぜ?
金に困っていて死にたいなら、その前に俺がなんとかしてやる。
一千万円くらいなら、にいちゃんがその臓器を担保にしてくれりゃぁすぐ用意してやるよ。」
その言葉に、赤服は一瞬揺れ動いたようにも見えたが、すぐに決意に満ちた返事をする。
「いや、金には困っていない。俺はもうとにかく疲れたんだ。俺はここに死にに来た。さあ、行くぞ!」
目を瞑った男が引き金を引いた。
乾いた音の反響。
静寂の中、近くの床にどさりと何かが落ちた音がする。
心臓の音がバクバク聞える。
自分の顔にかかった生温かいものを感じて初めて、女は自分が目を閉じていた事に気がついた。
恐る恐る目をあける。
真っ赤に染まった自分の服。
嘘でしょ……、まさか、最初の一発で……
静まり返っていた野次馬の中から現れた数人の男が、床に血だまりを作る男の躯をどこかへ引きずってゆく。
「あちゃあ……、運の無い男だな……。
さぁ、次はお譲ちゃんの番だ……」
弾を込めなおした拳銃を男から渡された。
呆けていた女は、それを手に取った。
冷たくて、重い。
これが人の命を簡単に終わらせる、道具……
「お譲ちゃん、リボルバーを良く回しな。さっきの男の悪運がまだ憑いてるかもしれねぇからな。」
女は、震える手で言われたとおりに何度も何度も黒いリボルバーを回す。
もはや、恐怖で自分が何をしているのか分からなかった。
そして、先ほどの男がされたように後頭部に冷たいものを押しつけられた。
もう後戻りできない……
女は、震える手で自分のこめかみに鉄の塊を押しつけた。
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