2.スプリング・ハス・カム

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「どういう意味?」 「箍が外れたら危ねーなって思っただけ。」 スヴェインはミネラルウォーターのペットボトルを空にすると、目の前にあったダストボックスに放り込んだ。ペットボトルは綺麗にダストボックスに落ちていった。 「そんな事無いよ。ちゃんと良く考えて、使うべき時に使う。誰かを助ける時とか、守る時に。」 「お前単純だし、目先の利益に釣られそうじゃん。」 「うわー・・スヴェイン俺に冷たくない?」 膨れっ面になるレイルを見てスヴェインはクックッと笑った。 「まぁ、そんときゃ俺がどーにかすっからよ。取り敢えず好きにやりゃあいいさ。俺と違って、お前は好きにやれる力があるんだからな。」 スヴェインの口振りに、レイルは寂しげな顔になった。スヴェインは何か失言でもしたかと、目を細める。 「スヴェインはさー・・ホント、冷めてるよねぇ。」 「あぁ?何でそうなんだよ。」 「いつも自分を見限ってるみたいな口振りでさ。」 「実際そうだろ。お前の方が俺より強い。」 「そんな事関係無い。俺だとか、スヴェインだとか、そんな事関係無くさ、俺達は自由なんだよ。」 レイルの言葉を黙ってスヴェインは聴き届けた。レイルは口の中が塩辛くなった気がした。ここ最近のスヴェインとの会話にはこんな塩辛さが混じる。互いに遠慮する間柄では無いし、付き合ってきた年月に正比例する信頼度も高い。だけどいざ心を開いてみると微細な齟齬や個性の差異が見えてきて、知らず知らずに距離を置いたりしてしまう。もしその距離を無理に縮めようとしたら、途端に申し訳ないような、切ないような気持ちになる。 レイルはそれ以上スヴェインに話し掛けなかった。 色々語り合えば、心を開き合えば何かが変わるかもしれない。互いに認識している齟齬も、差異も無くせるかもしれない。だけど今一歩の所でレイルは踏み止まっていた。 もう、昔のように無邪気に人の心に触れられる年齢では無い。 その現実がレイルの中で時たま大きく存在感を示す時、レイルは胸の内側に引っ掻き傷が出来たような気分になる。 立ち止まる程でも無いが、無視できない痛みがレイルの思考を阻害した。
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