2.スプリング・ハス・カム

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気まずい沈黙が長引きそうになった時、都合よくアナウンスが流れた。サンドハーストへの到着を告げるアナウンスだ。 「そろそろ着くようだな。」 そこはかとなくスヴェインは云った。結局齟齬も差異も残されたまま、流されていく。レイルは一抹の寂しさを覚えた。 「そうだね。荷物纏めなきゃ。」 レイルとスヴェインは立ち上がり、荷物を預けているロッカーへ向かった。二人の荷物は今の二人にとっての全てだった。着替え、僅かばかりの生活用品、本、端末、幾ばくかのゲームと流行りとは縁遠い、一昔前の曲ばかりが入った音楽プレイヤー。スヴェインはダガーに変化するピアスを両耳に付けている。シルバーの十字架型のピアスだ。 これらがレイルとスヴェインの財産であり、資産だ。なけなしの、慎ましやかなこれらを持ち歩けば、どこにでも行けるし、どこにでも住める。身一つで世界に投げ出されたレイルとスヴェインにとってこれらは孤独を象徴し、また別の観点から見れば自由を象徴した。 フェリーはサンドハーストの港に付き、タラップを降ろした。階段を下りていくと近未来的なデザインの建造物が出迎えた。背後には球体が幾つも浮かんでいる。 「うわー・・でっかい。」 「口開けてんなよ。だっせー。」 スヴェインに窘められ、レイルは不満そうに口を閉じた。スヴェインの大人びた注意は時々癪だった。 新入生の人数は多く、校舎の玄関は新品の制服を纏った学生でごった返していた。知らない顔ばかりだ。緊張している者もいれば、欠伸をしている者もいる。性別は勿論、体格も、人種も様々。雑多な群衆だ。 「沢山いるな。」 「そうだね・・。」 レイルは新入生の群れを眺めていると、奇妙な違和感を覚えた。 どこか、寂しげだ。学校に入った事無い以上、入学式というものがどういうものかレイルは外聞でしか知らない。あくまで頭に思い描いているのは予想図に過ぎない。そんなものは当てにならないとは分かっていたが、それを差し引いても違和感は拭えなかった。
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