2.スプリング・ハス・カム

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玄関に入り、上級生の受付まで達した時にレイルは違和感が事実だと理解した。 受付をしている二年生、三年生は誰も彼もが沈んだ顔をしていた。怯えにも恐れにも似た暗鬱が彼らを陰らせていた。彼らが漂わせる暗鬱さを敏感な一年生が感受され、ウイルスのように伝播しているのだ。入学という晴れの舞台で舞い上がる事も出来ず、暗鬱さが作り出す檻の中で、新入生達は窮屈そうに押し黙っていた。 「・・何かあったのかな。」 レイルがそれとなく呟いた。スヴェインも暗鬱さを察知しており、目つきが変わっていた。スヴェインの灰色の瞳は元々薄暗さがあり、太陽光を入れても反射は控え目だ。そんなスヴェインが警戒したり、畏まったりすると目つきの光沢はより抑えられる。眼球の真ん中に虚が出来たように、一切の光を閉ざし出す。そうしてスヴェインは必要最低限の情報だけを絞り込もうとするのだ。 スヴェインは肌の色が薄く、真っ白に近い。顎先は尖っており、鼻梁も高く鋭い。よく研がれたナイフのような顔はこの目つきになると一層鋭さを増す。危うさと冷たさを秘めた顔立ちは近づく者を寄せ付けなかった。 一方のレイルはよくスヴェインにおっとりし過ぎていると注意される。暗い状況であればある程、反作用的に好奇心や穏やかさが浮き立つ。加えてレイルには天性の優しさがあった。困っている人を放っておけない、云わばお人好し。 「あんまり触れない方がいいな。」 スヴェインはそう返し、一歩踏み出た。独り言じゃない。レイルへの喚起でもある。表立ってスヴェインが注意しない時こそ、スヴェインは本気だ。これに逆らうと流石にスヴェインも怒りだす。生来短気なスヴェインを宥めるのは一苦労だ。レイルはこの時ばかりはスヴェインに従った。 それに、二年生、三年生が抱える暗鬱さの源をレイルは測りかねていた。底の見えない沼のように、迂闊に近寄るなと頭の中で警鐘が鳴っている。恐らくは、レイルが考える以上の物事がサンドハーストを支配しているのだ。 しかし、それでも反作用的に沸き上るものは抑えきれなかった。今回ばかりは沸き上げなければならないと本能が働いているようだ。 仄暗い絶望がひたひたと、足音を忍ばせてやってくるのをレイルの本能は敏感に察知していた。
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