2.スプリング・ハス・カム

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一年生が通されたノーブルホールは荘厳な装飾になっていた。レイル自身、人生で始めて見る広くて大きな室内空間。照明は厳かに席を照らし出し、備え付けの椅子は上質な素材で出来ている。舞台は暗幕やカーテンが配備され、シックな木材でくみ上げられている。芝居の一つか二つは打てるだろう。贅を尽くした仕上がりだ。 しかし、ホールを物珍しそうに見ている余裕は無かった。二年生、三年生が誘導している新入生の列に従わなければならなかったし、何より未だ尚付いて回る暗鬱さがホールの価値を損なわせていた。如何に荘厳なものが現れても、暗鬱さの前では霞んで見えた。 新入生が席に着き、しばらく経つとアナウンスが流れた。此処は入学式を生徒会が仕切るらしい。アナウンスが流れるまでのざわつきは心苦しかった。まるで空白を作らないように強いられたみたいで、レイルもスヴェインも楽しくなかった。アナウンスが流れ、入学式が始まる事で生まれる、喋ってはいけない時間の到来を新入生も、二年生三年生も心待ちにしていたようだった。 入学式はレイルの期待していたものよりずっと粛々と、淡々と行われた。レイルは退屈だとは思わなかったが、あまり心地良くは無かった。暗鬱さを隠そうとする意図が空回りしているぎこち悪さがレイルの心を撫でた。 やがて式が佳境に入ると、一人の女子生徒が壇上に立った。亜麻色の長い髪を靡かせている。背中まである髪は白く照らす照明の光を反射して鮮やかな光の粒を散らしていた。レイルとスヴェインは前から三列目だったので彼女の顔は良く見えた。気品ある顔立ちだ。目は適度に大きく、鼻や唇の形も整っている。体つきは華奢そのものだった。線が細い。足は長いし、女性特有の丸みは体のあちこちにあったが、どれも控え目だった。今にも消えそうな儚さがあった。 「新入生の皆さん、こんにちは。」 女子生徒は演壇に立ち、マイクを通して挨拶した。声も綺麗だ。上品に高く、豊かな膨らみがある。心地良く、温かに鼓膜を揺らした。 ホール内を包む暗鬱さの中でやっと生まれた光明だ。新入生達がそう判断した故の安堵さがあちこちから漏れた。
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