2.スプリング・ハス・カム

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だが、レイルは違った。レイルは悲壮を感じ取っていた。あの女子生徒の細身の体に似合わない重く、暗いものをレイルは感じ取っていた。この暗鬱さの中心はきっとあの人だ。レイルは切ない心境になった。 「本日、皆様に挨拶を致します、生徒会執行部、両ノ手、弓手四の指、シルク・アイリスです。」 シルク・アイリスは爽やかに明るく挨拶した。健気さが目立った。聴いているこっちが、悲痛さで胸が締め付けられた。 「この度は皆様のご入学を心からお祝い申し上げます。皆様の未来に主婦苦あらん事を、幸あらん事を。だけど、私達は先輩でありながら、あなた方をちゃんと歓迎できる体勢が出来ていません。本来一人も欠ける事無くあなた達を迎える筈の、大切な仲間達が此処にはいないからです。」 新入生達はより強張った態度になった。彼らにはその理由を理解していた。 「・・どういう事?」 レイルがスヴェインに囁いた。レイルは世情に疎かった。あの施設は外からの情報を一切与えなかった。その為、レイルはやや世間知らずな一面があった。大してスヴェインは施設が潰れて、サンドハーストへ移るまでの短い間にレイルの知らない所で必死に情報を収集していた。目の前の事に集中し、気を取られてしまうレイルの世情への疎さをカバーする為でもあった。 「徴兵法だよ。前に教えたろ?」 スヴェインが淡白に返した。レイルの頭に記憶が蘇る。 徴兵法。 三年前に施行された一定以上の魔術能力を持つ者を国家が徴発出来る法。施行以降、16歳以上を対象としており、一定の実力があれば少年少女でも徴発され、戦場に送り出される。今はブリュターニュ戦争の真っ只中だった。レイルとスヴェインは直接的な関わりは無い為イマイチ実感は湧かないが、世情の興味は戦争に向けられていた。
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