1.アフター・イエスタデイ

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僕は十二歳まで失われた家に住んでいた。変わらない日々をずっと送っていた。物心ついた時から同じように、遊び、勉強する。決して大きくない家とその周辺から出る事も無く過ごしていた。 何度かスヴェインと遠くへ行こうとした。だけどチェチェリアさんは豪く勘が鋭くて、僕達をすぐ見つけて連れ戻した。その度に叱られた。とても強く、厳しく。最初は小生意気に反抗していたけど、次第にできなくなった。 十一歳の時だ。チェチェリアさんは既に四十を越えていて、皴や白髪が目立ち始める歳に差し掛かっていた。最初は気丈に、強く怒っていた姿が怖かったけど、次第に怒る度に老いの側面を見せ始める彼女を見ていると悲しさが沸いて来た。彼女はもう昔の様に僕達を引っ張れる訳じゃない。スヴェインに指摘されて、僕は初めてそれを理解した。僕とスヴェインは失われた家の中でも年長者だったし、チェチェリアさんを見ていると辛さも募ってきて、二人ともしっかりしようと自覚し始めた。 それからはチェチェリアさんの支えになろうと、僕とスヴェインは年長者なりの振る舞い方をするようになった。そうする事で彼女が楽になれば良いと思っていた。だけど年長者として振る舞う為に抑え込んでいた好奇心は静かに僕の中で疼いていた。火を消しきれなかった種火が燻っているように、僕の胸の中は熱く滾っていた。 いつか、いつかでいい。もっと広い世界へ行けたら。ここじゃないどこかへ行けたら。 夢にも似た野心が僕の未来に希望を描かせた。 もし叶えられたら・・。 そう考えているだけでも僕は楽しかった。
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