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チェチェリアさんが不意に僕を抱きしめた。僕は驚いて背筋を伸ばしたが、すぐに緊張は解れた。
なんだか、悲しくなる抱擁だった。
最初に感じたのはチェチェリアさんの温もりよりも、その腕の細さだった。一人で十数人の子供達の料理を作っていた彼女の両腕は女性にしては逞しかったし、スラリと背が高く、肉付きも良かった彼女は僕達の目からも勇ましく見えた。だけどそんな彼女の両腕が普段の半分にも満たないような、そんな気がしたのだ。
いつものチェチェリアさんが消えていくような気がして、僕の胸は不安で一杯になった。僕はチェチェリアさんを抱きしめ返した。支えなければ彼女が崩れてしまうような気がして、僕は力を入れて抱き締めた。
「ごめんね。・・でも、あなた達は私が守るから。」
チェチェリアさんは強く、切なく、僕に囁いた。
それから一週間ばかり経った時、あの日は来た。
チェチェリアさんが買い物に行ったっきり、帰って来なくなった。いつも時間通りに帰ってくるあの人に限って、遅くなるなんて僕達は信じられなかった。当初は気丈に振る舞っていた僕達だけど、次第に隠しきれないくらいに不安が募っていた。
確か夜の九時を回った頃合いだったと思う。消灯時間を過ぎたのにチェチェリアさんが戻ってこないと分かった瞬間、年少の子供達が一斉に泣き出した。僕とスヴェインは彼らを慰めながらも、彼らに負けない不安を募らせていた。
おかしい。分からない。怖い。
心の中で必死にチェチェリアさんが帰ってくるのを祈りながら、彼らを慰めていた。
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