1.アフター・イエスタデイ

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夜十二時近く、泣き疲れた子供達が眠っている中で僕とスヴェインは二人だけで起きてチェチェリアさんを待っていた。沈黙が一層不安を駆り立てた。スヴェインは苛立たしげに貧乏ゆすりをし、僕は窓の傍で家の入口をずっと見張っていた。 待てど暮らせどチェチェリアさんは帰ってこなかった。事の異常さは益々色濃く表れる。僕もスヴェインも、無言で只管焦燥感に囚われていた。 状況が変わったのが夜十二時を越えた辺りだった。 あの男が来た。チェチェリアさんとずっと語り合っていた男だ。くすんだ金髪を後ろに撫で付け、サングラスをしている。冷たさは相変わらずだった。 男はサングラスを外した。青い瞳だった。綺麗な青色だけど、家の照明の下では黒ずんで見えた。 男は軽い挨拶を僕達にかわすと、無感動に、無感情に話し始めた。 、、、、、、 酷い話だった。 チェチェリアさんが死んだ。 交通事故らしい。失われた家へ続く道の途中、カーブを曲がり切れずにガードレールを突き破って落下したらしい。 訳が分からなかった。僕もスヴェインも、言葉を失った。悲しい事なのに、驚きの方が大きくて感情が上手く表に出てこなかった。 最初に露わにしたのはスヴェインだった。膝を着き、泣き叫びだした。大声で。いつも気配りに神経質になりやすいスヴェインが取り乱している所は初めて見た。僕はただその様を見ていた。チェチェリアさんの死が現実感を帯びていく毎に、僕の心は色を失っていった。 「非常に、残念だ。」 男が云った。嘘だ。僕は思った。無感動過ぎる。まるで蓄音機に録音した音をそのまま流しているような。 「君達は大変な苦労を強いられる事になる。だが、私はそれを見過ごせない。彼女がいない以上、君達の扶養を誰かが背負わなければならない。だから私が協力しよう。君達の苦労を、少しでも減らせたらと思う。」
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