1.アフター・イエスタデイ

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チェチェリアさんを亡くした僕達は海原に放り出された小舟も同然だった。男に云われるがまま、次の日には僕達は散り散りになった。 奇妙なまでにスムーズに、僕達は男が紹介する施設に引き取られた。その施設はチェチェリアさんが営んでいた家よりずっと大きくて、広くて、清潔だった。そこにいる職員の人達も優しかった。 だけど違った。そこには何かが欠けていた。僕もスヴェインもそれを敏感に悟っていた。表に出したら酷い目にあうような気がして心の奥底に閉じ込めていたけど、その違和感は次第に大きく膨らんでいった。誰も彼もが優しすぎる。そして僕達の事を知り過ぎている。 違和感は僕とスヴェインにある仮説を導き出させた。 僕達はあの男に乗せられたんじゃないか?この施設に僕達を入れる事があの男の狙いだったんじゃないか?この施設の人達は僕達がどういう人間か、何の為に此処に来るかを知っていて、接しているんじゃないか? だとしたら。 だとしたら、チェチェリアさんが死んだ事は・・・? 恐ろしい予感が僕の中で芽吹いていた。不思議と納得できた。あの男の表情も、あの無感動さも、これで全て説明がつく。 僕はこの予感をスヴェインに話した。スヴェインは思ったより驚かなかった。スヴェインも薄々察していたのだろう。 「誰にも話すな。」 スヴェインは深刻な顔をして僕に云った。 「絶対に、話すな。話したらきっと俺達は酷い目に遭う。もう負けていたんだよ、俺達は。あの男が来た時から、とっくに・・!」 スヴェインは唇を噛んで云った。辛かったんだ。僕も同じだ。悔しくて、悔しくてしょうがなかった。 僕達は奪われたんだ。元々何も持っていなかったのに、唯一の大切なものをあの男は奪ったんだ。
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