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あと一時間になった
俺は来たる1999年に備え、お気に入りのジーンズとTシャツの上にウールのカーディガンを着る
マフラーと手袋もし、妹の部屋からとってきた竹刀を手にとった
ふすまをそっ、と開けて居間を見ると家族は紅白を見てちょうどカラオケ大会しているところだった
「俺…行ってくるよ…」と一人つぶやいて、外に出た
外は凍てつく様に寒く俺の身体に針ごとく突き刺る
いったんウインドブレーカーを取りに家にもどった
多少寒さに強くなってから再び外に出る
何気なく上を見上げてみると深い藍色の空には満天の星空が広がっていた
こんな綺麗な空も、もう見れなくなるのか…
ぼうっと空を見ていると、なんだか心から小さなカケラがポロ、ポロ、と落ちていくような心地がした
それは自分が今まで感じたことのない寂しさ…否、虚無感だった
心に大穴が空いて、何かが流れ出て行くような、それでいてなにかが洪水のように流れ混んでくるような、不思議な感触
白い息をフーッと吐く度に胸が震え、苦しくなっていく
口がキュッと閉まり竹刀を持つ手に自然と力が入る
俺は今までぼんやり見ていた空を鋭くと睨みつけると心の中で自分を奮い立たせた
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