壱ノ章 サムライ剣志

3/54
前へ
/401ページ
次へ
冷んやりとした夜の空気が頬をなで、不気味な鳴き声が辺りに響く。 「い、今の夜蟲じゃない?」 夜になると活動し始める夜蟲。大型のものは人を襲うこともある。 そのため、夜の森を好き好んで歩く者はいない。 少女も例外なく、暗くなる前に近くの村に立ち寄るはずだった。 その時、少女の頭の中に野太い声が届く。 『だからわしは左の道だと言ったじゃろう!』 どこからでもなく、少女の頭の中に直接届く声。少女はそれが当たり前のことであるように、反論した。 「だって、地図には右って書いてあったんだもん!」 『香澄(カスミ)が自分で蟲を退治するなら、わしは何も言わんが。どうせわしに退治させるんじゃろ?』 香澄と呼ばれた少女は、頬を膨らませなおも抗議する。 「だってー、しょうがないじゃん。蟲、苦手なんだもん。温羅(ウラ)だけが頼りなんだからね」 『はぁ、もう蟲は食い飽きたわい……』  
/401ページ

最初のコメントを投稿しよう!

399人が本棚に入れています
本棚に追加