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冷んやりとした夜の空気が頬をなで、不気味な鳴き声が辺りに響く。
「い、今の夜蟲じゃない?」
夜になると活動し始める夜蟲。大型のものは人を襲うこともある。
そのため、夜の森を好き好んで歩く者はいない。
少女も例外なく、暗くなる前に近くの村に立ち寄るはずだった。
その時、少女の頭の中に野太い声が届く。
『だからわしは左の道だと言ったじゃろう!』
どこからでもなく、少女の頭の中に直接届く声。少女はそれが当たり前のことであるように、反論した。
「だって、地図には右って書いてあったんだもん!」
『香澄(カスミ)が自分で蟲を退治するなら、わしは何も言わんが。どうせわしに退治させるんじゃろ?』
香澄と呼ばれた少女は、頬を膨らませなおも抗議する。
「だってー、しょうがないじゃん。蟲、苦手なんだもん。温羅(ウラ)だけが頼りなんだからね」
『はぁ、もう蟲は食い飽きたわい……』
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