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授業終了のチャイムが鳴ると、一斉に生徒が席を立ち思い思いに話し出す。
騒がしい教室を誰にも気づかれず抜け出すには、一分ぐらい教科書などを整理しているふりをして、教師が出て行くと同時に逆の扉から何気なく出て行くのがベストだ。
午前九時三十一分、いつも俺は休み時間に教室を抜け出し図書室へ向かう。
ただ、そのことは誰にも、というか学年の人には気づかれてはいけない。
俺の名前は深瀬将―ふかせまさ―、あんまりブレザーが似合わない高校二年生。
ネクタイがうまく結べず、いつもズボンまで長さが足りていないのが大きな要因だと思う。
自分で言うのもなんだが、俺は授業中もふざけて騒ぐし、明るくてバカな奴らとつるんでいて、結構好かれている方じゃないかなと思う。
ただ、高校生の思春期は嫌いな奴と好きな奴があまりはっきりせず揺れ動く。
もし休み時間に図書室で本を読んでる暗い奴と認識されたら、皆に引かれてしまう。
だから図書室へ行くことは誰にも秘密なのだ。
「将ぁ」
廊下を俯いて歩いていたら勢いよく背中を叩かれた。
前につんのめった俺は危うく転びそうになりながら後ろを振り返る。
俺を馬鹿力で張り飛ばしたのは、細身で華奢なクラスメートだった。
茶色がかったショートヘアを肩口でさらさらと揺らし、彼女は何事もなかったかのように、俺ににっこりと微笑む。
「今日も図書室行くの?」
「ばっ…」
慌てて彼女の左腕を掴み、階段の隅へ引っ張った。
誰も周囲にいないことを確認して、思いっきり睨む。
だけど彼女は小首を傾げ、俺を見上げた。
「大きな声で言うなって言っただろ」
彼女は三浦希子―みうらきこ―。
成績優秀だし結構可愛いし、守ってあげたくなる感じの女の子だ。
話しかけられたらときめいたりしていたかもしれない。
ただこいつは俺の幼なじみで、弱点を知っている唯一の人物なのだ。
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