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生まれた時からの付き合いでかれこれ十六年になる。
所謂腐れ縁ってやつだ。
三歳の頃ににんじんが苦手で泣いたことや、四歳の頃夜一人で寝るのが怖くて希子の部屋に泣きながら押しかけたり(家が隣で、俺達の部屋は窓を開ければ屋根をつたって互いに行き来できる)とにかく泣き虫だったことはまだどうでもいい。
問題なのは俺が推理小説オタクで将来の夢が探偵、副業がミステリー漫画家だってことを全て知ってることだ。
将君頑張って、応援してる、とか言ってくれるただの可憐な少女だったらまだいい。
でも希子は人の弱み握って利用しようとするからたちが悪い。
今も腰に手を当てて俺を睨み返している。
ただそんな顔も可愛いからつい目を逸らしてしまった。
この時点ですでに上下関係が出来上がっている。
「だってもう学校の推理小説は一年生の時に全部読んだじゃない。何しに行くの」
「もう一回読み直すんだよ。邪魔すんな」
意味わかんないと膨れる希子とギャーギャー言い合っていたら、休み時間終了のチャイムが鳴ってしまった。
二人同時にスピーカーを見上げる。
十分もこんなところで騒いでいたのか。
俺は肩を落とし、せっかくの貴重な読書時間を希子なんかのために使ってしまい、後悔しながら教室へと帰ろうとした。
ちょうどその時。
希子の後ろの階段の窓に、黒い影が一瞬通り過ぎた。
ただ、ここは三階へ向かう階段で、その窓に何かが通り過ぎるなんてことは有り得ないのだ。
しかも上から下へと。
今の黒い影は…。
凄まじい悲鳴が窓の下から聞こえた。
希子をどけて窓から身を乗り出す。
遥か下のコンクリートには、女の人が倒れていた。
もしかして今の影はあの女の人…。
人間が目の前で落下した。
「どうしたの」
あまりの衝撃に言葉を失う。
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