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希子が答えない俺に苛立ち横に並び、同じように下を見ようとする。
慌てて窓から引き離し、階段の隅に連れて行った。
だからそう膨れるなっての。
さっきと同じポーズで俺を睨んでくる。
でも今回は引くわけにはいかない。
俺も腰に手を当てた。
「人が落ちた」
二人で同じポーズをとったまま時間が流れる。
数十秒が経って希子がはい?と聞き返してきた。
「だから人が落ちた。女の人だ。で、多分俺はその瞬間を見た」
「………ふーん」
冷静に見えるが、長い付き合いで分かる。
希子のそっけない相槌は、パニックを起こして相手のことまで気が回らない時の癖だ。
希子はそのまま固まっていたが、回れ右して階段を降り始めた。
「おい、どこ行くんだよ」
声をかけると、ぎこちない動きで振り向き、口をゆっくり開いた。
「落ちた人のところ」
唖然とする俺を取り残して、希子はどんどん下へ降りていく。
「ま、待て、お前が行ってどうするんだよ。予鈴鳴ったし、遅刻するぞ。教室へ帰ろう」
「でも、人が」
「先生が何とかするだろ。それよりクラスが混乱して騒ぐことの方が危険だ。委員長だろ、こういう時にしっかりしなきゃどうするんだよ」
しばらく俯いて黙り込む。
何かを考えていたが、やがてにっこりと顔をあげた。
「ねえ、私は委員長だから、皆を不安にさせないために事実を知る必要があるよね。教室を静かにさせるのは副委員長の矢野君でもできるし。だから、やっぱり見に行かなくちゃ。宮田先生を」
希子はそう言って階段を駆け下りる。
最後の段は勢いよく跳んで着地して走り出した。
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