1.始まりの一時間目

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希子が答えない俺に苛立ち横に並び、同じように下を見ようとする。 慌てて窓から引き離し、階段の隅に連れて行った。 だからそう膨れるなっての。 さっきと同じポーズで俺を睨んでくる。 でも今回は引くわけにはいかない。 俺も腰に手を当てた。 「人が落ちた」 二人で同じポーズをとったまま時間が流れる。 数十秒が経って希子がはい?と聞き返してきた。 「だから人が落ちた。女の人だ。で、多分俺はその瞬間を見た」 「………ふーん」 冷静に見えるが、長い付き合いで分かる。 希子のそっけない相槌は、パニックを起こして相手のことまで気が回らない時の癖だ。 希子はそのまま固まっていたが、回れ右して階段を降り始めた。 「おい、どこ行くんだよ」 声をかけると、ぎこちない動きで振り向き、口をゆっくり開いた。 「落ちた人のところ」 唖然とする俺を取り残して、希子はどんどん下へ降りていく。 「ま、待て、お前が行ってどうするんだよ。予鈴鳴ったし、遅刻するぞ。教室へ帰ろう」 「でも、人が」 「先生が何とかするだろ。それよりクラスが混乱して騒ぐことの方が危険だ。委員長だろ、こういう時にしっかりしなきゃどうするんだよ」 しばらく俯いて黙り込む。 何かを考えていたが、やがてにっこりと顔をあげた。 「ねえ、私は委員長だから、皆を不安にさせないために事実を知る必要があるよね。教室を静かにさせるのは副委員長の矢野君でもできるし。だから、やっぱり見に行かなくちゃ。宮田先生を」 希子はそう言って階段を駆け下りる。 最後の段は勢いよく跳んで着地して走り出した。
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