文乃、四月

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最初に滝君に気づいたのは私だった。 三年に進級して初めての水曜日。 彩乃の部活が終わるまで読書でもしようと向かった図書室で、滝君を見つけた。 その時の滝君は、本棚の最下段の本の背表紙を指でなぞりながらひとつひとつタイトルを確認していた。 適当に読めるエッセイでも探そうと考えていた暇な私はしばらく滝君を目で追ってしまった。 這いつくばるように小さく体を折り畳み、本棚を覗き込む。少々長めの前髪が邪魔なのか、時折頭をプルプル振る。指で髪を掻き上げる。どこまで確認したか見失ってまた本棚に頭を突っ込む。滝君はそんな動作をひたすら繰り返していた。 あの人……、かわいい……! 彩乃にも後で報告しなくちゃ! 私は図書室の片隅で小さく笑っていた。
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