思い出がない少年─東城貴哉

4/39
前へ
/76ページ
次へ
東城貴哉という人間は゛ある日゛を境に思い出と感情を失った。 一種の記憶喪失で『知識』は頭に残っているのだが、『思い出』だけが必死に思い出しても頭が真っ白になり考えられなくなる病気だ。 例えば算数で式の解き方は分かるのに、それを初めて解いた時期が分からない。 人の名前を覚えているのに、その人と過ごした日々が分からないという現状に悩まされていた時期があった。 その頃は小学六年の時であって考える事が出来てマシだったのだが、中学に上がった際に些細な事でも考える事を放棄して、何も思わず、何も感じない。ただの動く人形のような日々を生活をしていたのだ。 ほとんどが親か自分の体の本能を頼って学校に行くも、ただ椅子に座り、外を呆然と眺めているだけで授業もろくに受けなかった。 生徒や先生が話しかけても上の空、瞳は生気も感じられない。まさに魂が抜かれたと言っても過言ではない。
/76ページ

最初のコメントを投稿しよう!

93人が本棚に入れています
本棚に追加