月下霊場

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慎重に氷神が降りてから少し間を空けてあたしも市電を飛び降りる。 ちなみに、この駅で降りたのはあたしと氷神の二人だけだった。 電停があるのは、町外れの明かりも疎らな場所だ。 氷神が歩き去った方に必死で目を凝らし、闇に半分同化したスーツがくすんだコンクリート塀の向こうに消えるのを捉えた。 足音を殺し、だけどなるべく急いで塀のところまで走る。 冷たい壁に背中を着けて角から覗き込む。その向こうに氷神の姿は無かったが、代わりに聳え立つ三階建ての白い建物が目についた。 黒ずんだ白地の壁、所々割れたガラス窓。正面入り口の上にある外れかけた文字はこう並んでいた。 『原山病院』 その名前に、あたしは聞き覚えがあった。確か、美姫が二、三日前に持ってきたネタで、今噂のスポットとかいう触れ込みだったはず…… そうだ、思い出した。今話題の心霊スポットの一つだった! 何でも、肝試しに中に入った若者が三人帰って来なかったという話だ。 でも、なんで氷神はこんな所に来たのだろう? こういう場所に冷やかしで来て、【悪いもの】を連れて帰ってしまうなんてケースは珍しくないのに。
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