鋏の少女

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 生徒数と校舎、教員数と言った点で学校の規模は小さいものの、田舎の小学生は街中の小学生に比べて伸び伸び育っているように見えた。休み時間とあればほぼ例外無く児童は鬨の声を上げながら玄関を飛び出し、自然豊かな校庭や裏庭を思い思いに駆ける。行動に恐れが無く、パワーに満ち溢れているように感じた。子供らしさをしっかりと前面に出したこの学校の児童は手に余すことも往々にしてあったが、非常に教育のし甲斐があり、また教えられることも多かった。  新任式を経て四月から勤めだした新参者の私に対して、皆が旧来から友達同士であるかのように接してきた。私もつい児童たちのペースに乗せられ、休み時間に一緒にはしゃいでは同僚に苦笑されたものだ。また、今まで生まれも育ちも街中だった私にとって、山と田畑に抱かれる土地は心地の良い場所だった。祖父と祖母の家は地方にあったらしいが、両親が晩婚であった為に物心つかないうちにどちらも亡くなってしまっていた。つまり田舎の土地は縁遠い場所だったのだ。物珍しさからと言われればその通りなのだが、私は溌剌とした生徒と開放感ある景観を満喫していた。担当する学級も問題は無く、実際、離任式を迎えるまで何もかも上手く行っていた。  ただ一つだけ、鮮明な記憶として残る気懸かりな出来事があった。それは新任して間もない夏の日のことだ。
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