鋏の少女

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 最初は見間違いだろうかとも思ったが、目が暗所に慣れるにつれて誤認の推測は消えていった。標的を捉え喜々として集り来る蚊を払いのけながら、私は忍び足で得体の知れない赤へと近づく。  お互いの距離が20メートル程になった所で、ついにそれが何だかを知った。ワインレッドのワンピースに身を包み、夜陰に紛れる黒い長髪を真っ直ぐ流した少女のようだった。あんなに髪の長い女子児童は私の知る限りこの学校にはいない。では他校の子だろうかーーいや、小学生にしては身長が幾分高いようにも思える。中学生とか高校生、それ以上も有り得る程度だ。ただ一つ言えるのは、そう歳の行っていない若年の女性であることだった。性別や服装が分かったからといって不信感が解消される訳ではない。こんな時間に、こんな場所でどうしてという疑問が残っている。いや、こちらが本題だと言えよう。  目が離せず、かと言って咎められずに小さめの桜の木陰で立ち往生していると、そこで初めて少女は行動を見せた。柔らかい黒土の上にしてはぎこちなさが感じられない、滑るような足取りで歩くと、畑の端、沿う場所に敷かれた田に水を届ける役割を担った、やや幅広い川の傍で足を止めた。
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