鋏の少女

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 校庭の角に設けられた外灯がぼんやり照らす中で、その少女の存在感は異様だった。艶やかな髪とワンピースの鮮紅色は宵に溶け込んでおり、注意しなければ青白い両腕と両足がぬうっと空間から生じているようにも見える。首だけでお辞儀をするように頭を垂れており、華奢な体躯とは裏腹に、肩幅に開かれた細い足は少女らしからぬ仁王立ち。瞬きをしてしまうと消えてしまいそうでありながら、儚さの美しさは無い、嫌悪感さえ受け取れる奇妙さを纏っていた。  少女が立ち止まる目の前には向日葵が一本。確かあの辺りは、私が受け持つクラスの生徒が育てているブロックだ。何をするのだろうという好奇心の高まりと反比例して、周囲の温度が下がっていくような錯覚を私はした。  少女は伸びきった左腕を肩を使いながら持ち上げると、対面する向日葵の、花の真下の茎部で前方挙上を停止した。  その手には何かが握られている。少しばかり角度を傾けた瞬間、それは弱い光をぎらりと反射して形状を告げた。確かな金属光沢を帯び、中央部を支点に二本の流線型が伸びている。細い指が通る輪状の持ち手は見た目より重い印象を与える漆黒。最近見覚えがある形ーーそうだ。つい先週、勤務を終えて学校から帰宅すると、私の家内が居間の床で裁縫道具を広げ家事をしていた。要らなくなったシャツを雑巾として再利用するべく、適度な大きさに切っていたのだ。雑巾へと変えられた中に私が昔から愛用しているシャツがあり、少し口論になった。そんなことはいい。その時に家内が握っていたのは大振りな裁ち鋏だった。  少女が左手に握っているのは形もサイズもそれに近い、威圧感のある鋏だった。
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