15人が本棚に入れています
本棚に追加
靄が掛かったような灰色、濃い霧のような薄い雲。曖昧なその空間を埋めるように浮かぶ木製の時計、その全てがモノクロ映像のようにぼんやりと男の視界に映る。
時計の針は零時に向かい、少しずつ動いているように見えた。
(これが、俺の終末時計だ)
時計の針が午前零時を指すまで、残り時間は僅かだろう。それは十分過ぎるほどの時間に思えた。走馬灯になるほど綺麗な記憶は生憎持ち合わせていない、男は静かに微笑んだ。
この針が真上を向く時が終末に違いない。そう確信していた。
しかし、いくら男が見つめていても、時計の針がもう一歩、進む気配はない。
長い待ち時間にうんざりし、男は振り返った。そこには自らが歩いて来たであろう無数の細く長い道が繋がっている。目を細め、果てしなく遠い道の向こう側を凝視すると、仄かに明るく澄みきった空気と爽やかな風が漂ってくるように感じた。
もう一度あの場所を眺めたい、男は強く願った。しかし思いとは裏腹に、足元は吸い付くように地面にへばりつき、動く事が儘ならなかった。
最初のコメントを投稿しよう!