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次第に目の前がボンヤリと霞み、細長い道はまるで蛇のようにぐんにゃりと歪んでいった。ホゥホゥとフクロウの鳴き声のような音だけが微かに耳に届いた。
"……ちゃん。おじいちゃん"
ぼんやりとした景色は次第に薄れ、男はゆっくりと目蓋を開けた。白い天井が眩しくて目を細めた。
「おじいちゃん。起きた?」
まだあどけなさを残した幼児が、男のベッドサイドから背伸びをしながら覗き込んだ。
「あぁ、お前か。おじいちゃんは止めてくれ。……俺の名前は徹(とおる)、荒木徹だよ」
子供の顔を見るため、体を起こそう試みたけれど、全身に幾つもの管が繋がっている事に気が付き、再び力を抜いた。脱力した全身に激しい痛みが走り、徹は思わず顔をしかめた。
「徹さん。痛いの?」
幼児の伸ばした手が徹の頬に触れ、ほんのりと暖かさを感じた。
「徹さん、か。まぁいいさ。あぁ痛いな、まだ生きてる証拠だな」
痛みで生命を感じるとは皮肉な事だ。徹は苦笑いをした。
「よく寝てたよ。夢を見てたね」
「あぁ、不思議な夢だ。あの道の向こうに何があったんだろう」
あの道の遥か向こうに漂う空気が懐かしく、妙に恋しく感じた。
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