鬼の影

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 しかし、さる大御店の手代である大旦那様はその態度に憤慨されたそうです。  強突く張り(ごうつくばり)の欲張り爺いが、こっちが下手に出てりゃ良い気になりやがって!  断られ帰る道すがら、大旦那様はあらゆる罵詈雑言を吐き出していたと言います。 「宥めるのが大変だったんだから。普段優しい人が怒ると恐いって言うのは本当なんだねえ」  まるで他人事のような言い方がなんだか可笑しくて、私も覚えず笑顔になりました。 「……本当に恐かったんだよ」  唐突に、恐ろしく真剣な顔をされました。 「それこそ、本当に殺してしまいそうな勢いだった」  私は気付きました、お義母様の身体が小さく震えていることに……。  陽射しの差し込むこの部屋は寒いとは言えません。  いつも気丈なお義母様が、思い出したことであるにも関わらずここまで恐れておられる。  私は、思わず自らの手で自分の身体を抱いていました。  まるで鬼を見たかのようだったと、お義母様は呟きました。
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