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「しかしね、鬼も親切じゃない。代償がいるんだよしっかりと。その代償はね――」
お義母様が声を潜めたので、自然に私も顔を近付けました。
「怒りの主を、鬼に変えてしまうんだとさ」
私は息を呑みました。
普通ならば「何を馬鹿なことを。ただの言い伝えでしょう」と、聞き流すところで御座います。
――しかし、お義母様の眼差しがそれを許しませんでした。
「私もね、ただの偶然だと言ったのさ。そんな事が本当にあったら、この町が鬼で溢れちまうってね」
なかなか安心しない大旦那様に焦れたお義母様はこう仰います。
そんなら、私がお前さんを見てあげよう。鬼になったところなんか無いからさ。
腕を見て脚を見て、頭も腹も見たと言います。
「なんにも変わっちゃいなかった。どこもみんな、あの人のまんまだった」
ようやく安心した大旦那様とお義母様は、やはり気まずい思いを抱きながら過ごしたと言うのです。
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