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「何日か経ってからだった。袋物屋の主人が亡くなったってね。だから私達はようやっと目当ての場所を手に入れたんだよ」
気味が悪くないと言えば嘘になりますが、それでもやっと掴んだ好機です。乗り遅れてなるものかと、お義母様達は大いに張り切ったと言います。
「ただ――そこでだった」
またぞろ暗くなったお義母様が、庭先に目を遣りました。眩しそうに目を細めました。
「私が鬼を見たのは……」
影だったそうです。
新しく興した御店の近くに居るときだけ、大旦那様の影の頭にニ本の角が現れるのです。
何故か大旦那様には見えませんが、お義母様や他のお客様にはしっかりと見えると言うのです。
「ああそうかと納得した。あの主人が、亡くなった人が恨んでるんだってね」
お義母様だけに見えるのなら良いのですが、お客様にまで見えるのであれば商いに障る。
仕方無しに御店の場所を変えた。それが今のこの場所なのでした。
影の角もなくなった。別段悪いところも見当たらない。やはり気にせず正解だった――とお義母様達は思ったそうです。
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