鬼の影

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「そうは問屋が卸さないってね。少し不思議な事が起こるようになったんだよ」  大旦那様がお一人で歩くと、どういう訳か始めの御店の場所に行き着いてしまう。どの道を選ぼうが、反対側を目指そうが、結局同じ―― 「呼んでいるんだと思ったよ。怒っていて、仕返しをしようとね。ただ――」  ふと、お義母様はばつが悪そうな顔をされました。 「その後は何もなかったのだよ。そう、不幸にも御店の身代が傾くこともあの人が不治の病に冒されることもね」  ――拍子抜けした、とお義母様は仰いました。 「もしかすると、あの人の怒りが鬼の好きな類いではなかったのかもしれないと思った。あの怒りは一緒に馬鹿にされた私や、大恩ある当時の御店を思ってのものでもあったからね」  大旦那様の優しさが鬼を呼び、優しさが大旦那様を救ったのでした。 「富一がお前と会ったのは、打ち壊された長屋でだったね?」  お義母様の突然の質問に、私は面食らいました。  どうしてまた、この流れで富一が出てくるんだろう?――そう思いながら首を縦に振りました。
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