鬼の影

16/18
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
「あの子はね、お前がお日高さまにお詣りに行っているのを知っていたのだよ」  何故、お義母様がこんなことをお伝えなさるんだろう。私はそう思いました。 「お前がお詣りに行っている間に、火事が起こったのだね?」  もう一度、私は肯定の返事を致しました。 「富一は言っていたんだ。『あの頑固親父、話も聞かずに突っぱねやがった』とね」  ――え? と、私は思いました。  あの富一が、口汚く人を罵るなんて考えられなかったからです。 「気付いたかい? 頑固親父は――多分、お前のおとっつぁんの事だよ。そして富一は……あの辺りに火を放ったんだ」  我が子の事を、まるで吐き捨てるように口にしました。  そして私は――ただただ混乱しておりました。そんな私にお義母様は続けます。 「お前が長屋に居ない事を確かめた後に火を放ったんだ。お前が長屋に戻りすぐに声を掛ければ、流石に怪しい人間だ。だからこそ人を遣り、一晩経ってからお前を迎えに行ったんだ」
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!