鬼の影

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 もうお下がりと、お義母様は仰います。そして頭を下げ出ていく間際―― 「今の話を信じるかはお前次第だ。ただ、言い伝えは本当だよ。あの人は怒りを川に流したけど、富一は欲を実行してしまった……」  そう仰って、お義母様は顔を俯けました。  私はもう一度頭を下げ、部屋を後にしたのです。  悶々としました。出し抜けに涙が出て参りました。  お義母様がいつも嫌味なことを言う、意地悪な方だったら良いのに。それならこんな話、ただの脅しだと割り切れるのに――。  しかし、お義母様は優しい方でした。聡明な方でした。  私のことも、富一のことも、全てを見抜く目をお持ちでした。 「どうしたんだ? 目に涙なんか浮かべて。何か辛いことでもあったのかい?」  富一が、そんな私に声を掛けました。  気付けば私は、歩きに歩いて御店の方まで来ていたのです。
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