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私はいつもの様に、日高神社にお詣りしていたのです。どうか、おとっつぁんと幸せになれますように――と、一心に願っておりました。
私の家族はおとっつぁん一人だけで御座います。昔は腕利きの錺職人(かざりしょくにん)で、銀に瑪瑙や翡翠をあつらえた、それはそれは美しいかんざしを造るなどして生計(たつき)の道を立てていました。
しかしある時、積み立てられていた材木の下敷きになりまして……利き腕と、両の足を悪くしてしまったので御座います。それでも何とか私に辛い思いはさせまいと、野菜の振り売りから何までを、おとっつぁんは働きに働いて私を育て上げてくれたのです。
御神体が祀られている社に手を合わせた後、振り向いた私は声を失いました。
――燃えている……!
空は次々に生み出される黒煙に覆われ、まだ日が出ているにも関わらずお天道様が顔を隠したようでした。
日高神社は幸運にも風上でしたので、火の粉が振りかかるということもなく私は無事で御座いました。ただ胸にあったのはおとっつぁんへの心配だけ……。
火消し達が建物を打ち壊す、どかんどかんという音が、私の心の臓の音かと思えるほどただただ血の流れを感じておりました。
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