鬼の影

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 結局その日の内に帰ることは叶わず、私は近くに設けられたお救い寺に身を寄せたのです。  火事で焼け出され、傷を負った人で溢れ返っておりました。無傷の私は医者の先生のお手伝いをしながら、怪我をしたおとっつぁんが運び込まれていないかと目を光らせていたのです。  願いも虚しく、おとっつぁんが運び込まれる事もなく……私はニ、三日を寺で過ごしました。  たくさんの火は風を呼び、やがては雨を呼ぶものです。さんさんと降る雨が、恐ろしい火を治めてくれましたが……私の心は騒ぐばかりで御座いました。  住職様に頭を下げ、住んでいた貧乏長屋に向かいます。火の強さと、火消しの努力が残っておりました。  ――そう、長屋は勿論周辺の建物も全て打ち壊されていたのです。随分と時間が掛かりました。やっとこさ帰れたときには、日が傾いておりました。  がらくたの山になった長屋の前で私は立ち尽くしました。誰かがそんな私を見ていましたが、日も暮れるといつの間にか居なくなっておりました。  ――おとっつぁんは、きっと何処かにいるんだよ。  寄るべもない願いに期待を持ち、私は潰れた長屋に腰をかけました。 今に帰ってくる。心配させたな、大丈夫だ。おとっつぁんはぴんぴんしてらァ――と朗らかに声をかけてくれる。
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