23人が本棚に入れています
本棚に追加
一晩をそうして過ごしました。不思議と恐くはありませんでした。
……もしかすると、腰かけたがらくたのすぐ近くに、おとっつぁんが下敷きになっているのかもしれないと、心の何処かで思ったからかもしれません。すぐ近くにおとっつぁんは居て、私を見守ってくれているんだ――と。
夜が明けました。いつの間にか、知らない男が私の前に立っておりました。
「若い娘が、こんな所に独りで居ちゃいけない。私の店においでなさい」
――これが、私と富一の出会いでした。
富一はこの御店、虎屋に私を連れてきてくれました。そして、なんの宛もない私を女中として雇う算段をつけたのです。
とは言え、私は突然現れた馬の骨で御座います。長年働いてきた他の奉公人と肩を並べるわけにはいきません。
富一は頭を悩ませた後、こう言ったのです。
「母さんの世話をしてくれないか?」
こうして、私はお義母様と顔を合わせました。最初、お義母様はとても気難しい方だと思っておりました。
私を見ると小難しい顔をされていたからです。
最初のコメントを投稿しよう!