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「この虎屋はね、云わばニ代目になるんだよ。一度、場所だけそっくり代えたからねえ」
暗い井戸を覗き込むように――お義母様は自分の心を覗いておられたのでしょう――仰いました。
「今からするのは富一も知らない、虎屋の昔話だよ。もう、知っているのは番頭くらいだろう」
番頭さんはもう何十年と虎屋で奉公をしてきたお人で御座います。私は改めて、この御店の歴史が幾星霜を経ている事を知ったのです。
「それじゃあ、どこから話そうかね――」
ゆっくりと、お義母様のお話が始まりました。
事の始まりはお義母様と大旦那様が御店を開こうと言うところから始まりました。
当時、ある御店の手代と女中だったお二人はある願望を持っておりましたそうです。
〝この店よりも立派な店を〟
それは、まだ何の元手も無いお義母様達にとって、川の水を飲み干すくらいの無理難題でした。
とは言っても、若き日の大旦那様は御店の手代で御座います。その時の主人に掛け合い、資金を借りるところまで漕ぎ着けたというのです。
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