鬼の影

9/18
前へ
/20ページ
次へ
「お前は分からないだろうけど、今でもその御店の方がお見えになるときがあるんだよ。私達にとって神様仏様だから、早い内に覚えないとね」  御店を興すお金はなんとかなる、働く奉公人は自分とお義母様が居ればはじめは事足りる。  後は――そう、場所で御座いました。  やはり、よく人の往き来する中央区であるのが望ましい。しかし、そんな場所を手に入れるためにはさらなる元手が必要になってしまう。  悩んだお義母様達は、もともと中央区に土地を持っている方に頼んで土地を貸していただこうと考えたのです。  そして、その場所はすぐに見つかりました。 「袋物屋だったんだよ。お前も見たことぐらいあるだろ? 長い棒に綺麗な袋――匂袋や煙草入れを下げて売り歩いているのを。あれの御店だったんだ」  そう仰って、小さな咳をお義母様はされました。  私は少しだけ、心配になったのです。と言うのも、薄々この話があまり宜しくないものであると感じられたからで御座います。  そのような話がお義母様を苦しめ、結果として咳をさせているような、そんな気がして参りました。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加