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懸念を表したのは月だった。一真の方を見、彼女はうーんと唸っている。ただ、これは一真の案に反対というよりも、一真自身の身を案じているかのようだった。
「心配性だねー、月は。大丈夫だって!」日向がいつもの、何を根拠にしているのか量りかねる明るさでもって月の肩を叩いた。
「……うん、そうじゃなくて――」
と、月は目を伏せた。何か戦略として致命的な矛盾があるのだとしたら、彼女はそれを指摘するはずだろう。
これは彼女個人の気持ちの問題なのだろうか。「役不足」と言いたいわけではないだろう。彼女自身が今否定していたし。
――だとすれば
なんだろうか。一真には想像もつかなかった。だが、未来は違ったようだ。何かを察したような顔になり、次いで睨むように一真を見る。日向もまた、無言で一真を見た。やがて、一真は女性陣全員が自分を見ている事に気が付いた。
各々がそれぞれ複雑ながらも、個性的な表情を浮かべているのを見て、一真は何か言うべきかと考える。が、海馬の号令が全ての者の思考を断ち切った。
「よし、その作戦で行くとしようや」
その一言で皆の視線が、彼に移る。助かったと思いつつも、月のあの表情が脳裏から離れなかった。だが、月はというと、既に感情を覆い隠してすっかりと心を閉ざしていた。それが任務だからだろうか、それとも怒っている? 後者はありえないように思えた。
だが、先程の僅かな間の間に、答えられなかった事。それが、何か致命的な事、取り返しのつかないような事のように思えてしょうがなかった。
――後で、なんて言われるだろう
いや、今は目の前の敵に集中すべきだ。そう自分に言い聞かせるものの、完全に気持ちを自制するのは、――いつものことだが――彼にとっては難題であった。
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