第五章 少女に行き場は無くて

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†††  やっと出てきたと思う程に、彩弓は待つ事に退屈していた。何度か、皆のいる部屋に行こうと、笹井を誘ったり、或いは一人で行こうとしたのだが、その度に笹井に阻まれた。彼は見かけに寄らず鋭く、彩弓のどんな小さな挙動も見逃さなかった。 観察力が問われる仕事に就いているせいだろうと、大人であれば見るだろうが、彩弓はそこまで考えが及ばない。  とにかく鋭い人だ、とだけ思っていた。それに皆は気が付かないが、とても勇気のある人だとも感じていた。初めて会った時は怯えていたけども、とても正義感があり、彩弓を逃がす為に全力だった。  それに、再び常社の所へ行くと決断した彩弓について来ると言った。結局捕まってしまったけれども、彼は最後まで弱音を吐かなかった。  五度目の脱走を見つかり、ずるずると引きずられて部屋まで戻される途中、皆がいる部屋のドアが開いた。彩弓は、ぱっと立ち上がって笹井の腕から逃れると、スタタター!! と一直線、笹井が怒る間もなく、あっという間に部屋の入口まで走っていき、出てきた未来の腰にしがみついた。 「彩弓ちゃん!」 「待ちくたびれたよ、お姉ちゃん」  待っている間、散々笹井にぶつけていた言葉を未来にもぶつける。ごめん、ごめんと未来は困ったような顔で応じた。出てきてくれた事が嬉しかったので、苛々も一瞬にして消えた。  背後から月が出てくるのが見えた。全くの無表情で。だが、無感情ではない。彩弓には何故か分かってしまう。彼女は多分、一真との関係で何かがあったのだという事が。未来から離れ、彩弓は彼女に近づいた。 「あ、あの月お姉ちゃん。あのね――」  だが、それを口にするのは、どうにか止めた。口にすれば嫌われてしまうかもしれない。彩弓はそれが怖い。口にしたところで、月の悩みを解消できるとも思えなかった。そんなこと無理だ。
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