第五章 少女に行き場は無くて

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「あの人をやっつけに行くの?」 「あの人……」ぽかんと月は考え込んだ。あの人といえばあの人だ。なんで、わかんないだろうと彩弓は少しムッとする。馬鹿にされたみたいで。 「聞き下手に話し下手やな。尤も、月の場合話すのも苦手じゃが」 「……むッ!!」月が眉を吊り上げて唸った。多分、図星なんだろうなと彩弓は思う。思うだけで言わない。海馬は澄ました顔で月の睨みを回避する。 「影夜は捕える。そうすれば、お前さんと奴の関係も断ち切る事が出来るからな」  しゃがんで、彩弓と同じ高さに視線を合わせながら、海馬は言った。彩弓はどうにか頷いたものの、完全に納得は出来ていなかった。 ――中原影夜。そう、そんな名前だった  彼はいわゆる他の「家族」とは違った。言葉では言い表せない程の神秘さと、悲哀さが詰まっているような感じ。  彩弓が自分達は家族なのか、そう問うた時に、彼は「そんな物よりも、もっと偉大な繋がりが築ける」とそう言った。確かにこの「繋がり」は家族とは違う。  影夜は彩弓の目を通して、ここにいる人間の事を知ることが出来る。会議に入れて貰えなかったのもその為だと、彩弓は理解していた。  そして、時には彩弓自身を操る事も出来る。いや、あの感覚は全くの操り人形になる事とは違う。どちらかと言えば、お互いの意識が混濁しているかのようだった。  だから、彩弓には影夜が頭の中に介入してくるときの記憶もある――そんな素振りは微塵も見せられないが―― 彩弓の言葉、気持ちの上に「影夜」という色を混ぜ込まれるような、あの感覚。それは深夜の悪夢のように、彩弓を蝕む。  それが断てるのならば……と思う一方で彩弓は知っていた。彼がどれだけ寂しい存在なのかも。彩弓と同じように。
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