第五章 少女に行き場は無くて

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 そして、今もなお彩弓は彼自身に敵の情報を流し続けている。常社神社の戦いでは、かなり楽しませてもらった。敵が、彩弓こそがこちらの狙いであると、ものの見事に騙されてくれた時は思わず笑い出してしまったくらいだ。だが、今回はどうだろうか。  彼らは彩弓の目を通して、自分達が見られている事を知っている筈だ。あのおめでたい少年はともかくとして、白虎に、蛇の使い手ならば何か手を打つ筈だ。いや、もしかしたら、これはそうか。あえて、自分達を見せる事による「宣戦布告」  これから乗り込むという意志表示。それで、この影夜が慌てふためくとでも思っているのだろうか。それとも古臭い仕来たりに則り、正々堂々と戦おうとでも言うのか。  影夜は昔から戦いにおける「礼儀作法」というものが嫌いだった。というよりも、古い考えに固執し過ぎている人間やその体制を憎んでいたというべきか。彼らには、中原影夜流のもてなしで戦いを楽しんでいって貰うとしよう。 ――敵が車を止める。 ――彩弓、笹井、未来を残して敵は車を出た。 ――曽我海馬が、白虎をその護衛として置いていく。  影夜は待った。敵がこの館に通じる道を歩き、館の敷地内へと主の許し無く入るその時を。その先の事をも、考える。彼らは一直線に此方へと向かってくるであろうか。それとも、二手に分かれるか? 出来ることならば“後者であってほしい”。
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