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「背後を取られるなよ、霧乃。どうやら、俺らは奴を見くびっていたらしい」
背中を合わせるように後退してくる海馬に、霧乃はそれでも笑って答える。
「というか、相手が悪いですね。こっちはどちらも武闘派。しかし、奴はこちらの感覚を狂わす結界でもって、本来の力を発揮させまいとしてくる」
亡霊の悲鳴に交じって時折聞こえる、絡繰りが動く不規則な音。間違いなく、先ほどから顔やら腕やらを出現させているのは、人形の仕業だ。それも複数。
八鹿の得意とした人形結界にも似ている。ただし、向こうが自身の霊気を人形に注いで操っていたのに対し、こちらはまるで自らの意思によって動いているかのよう。
「来ない、来ないで。出て行って」
少女のより一層はっきりした声が聞こえたかと思うと同時、霧乃の目の前の襖に歪んだ靄が掛かる。視界がぐらっと揺れたかと思うと、霞の中から真っ白な腕が突き抜けてきた。
反射的に振るい射出した蛇腹によって、腕は弾き落とされる。が、その腕を追うようにして一体の人形が現れた。大きさは実物大の少女そのもの。輪に結い上げられた髪を頭の両側で、揺らしながら滑るように近づいてくる。
「こいつは、彩弓か!」
もちろん、彩弓自身ではないだろう。それを模した人形だ。趣味が悪い。
海馬が反対側から近づいてきたもう一体を、拳で叩き潰しつつ怒鳴る。見知った娘と瓜二つだからと言って、決して手を抜かない。流石、と霧乃は感心しつつ、人形の首を蛇腹の刃で刈り取る。
だが、それで戦いは終わらない。歪んだ靄は徐々に、二人のいる空間を蝕みつつあった。上下左右、あらゆる方向からいつ来るとも知れぬ攻撃。さしもの、霧乃もようやくこれは、危機的状況であると認識した。
「さぁて、どうしたらいいかな?」
認識してなお、彼は“怖気づけなけなかった”
「ちょっとは自分でも考えたら、どうや?」
海馬がいつもと変わらない飄々とした口調で応じ、霧乃は苦々しく笑む。そう、彼の言うとおりだ。恐怖を感じようが、感じまいが、そんなことはここでは、関係ない。
それを気にしているという事に関してはさらにどうでもよいことだ。
頭の中で無意識に湧いた想いを振り払らう。そして、再び霧乃は向き合う。
――物の怪の魂の入ったその人形たちと
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