第五章 少女に行き場は無くて

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「今更だけど、これ本当に井戸かよ……」 「無人の洞窟に閉じ込められた男女二人……これドキドキしてこない?」 「しねぇって……何考えてんだ」 「やはり月じゃなきゃ嫌か」 ――チ 「おい! お前今舌打ちしたよな? 何が嫌だって?」  いつもの馬鹿騒ぎの延長。日向が、自分の意識をこの空間の恐怖から逸らそうとしているのが、一真には分かっていた。また、そうして貰わないとどうしても意識が洞窟に向いてしまうのも同時に理解している。 ――月がいたら、なんて言うだろう  恐らく慰めようとするだろうと、一真は思う。慰められたら、その気持ちに甘えてしまうだろうか。違うと答えたいが確信は持てなかった。  物の怪との戦いではある程度、場数を踏んだとはいえ、それでもまだ不足。だが、今はその実力不足を嘆いていても仕方がない。戦いは既にこの時から始まっているのだ。この空間に呑まれてしまうか、それとも進み続けるか。 「しかし、霧乃のやつは用意がいいよな。ランプやら梯子やら」  ランプは百円ショップの、梯子の方は防災用の、コンパクトなタイプ。ここが影夜の拠点であると知って、すぐさまに用意したものなのだろう。 「霧乃は、昔から頭が回る男だったからねー。……一真君よりもずっと」 「最後のが余計だが、反論も出来ないな」  目先と足先しか満足に見えない中、風の唸りが段々と大きくなっているような気がした。地図に間違いが無ければ、恐らくあの大きく開けた空間に、間もなく出る筈。 「でもね、あいつにも分からないものはあるんだよ」 「それは、なんだ?」  一真は周りに気を配りつつ、日向の妙に、思い澄ましたような顔を横目で見る。彼女が時々見せる、どこか人を寄せ付けないような表情だ。 「恐怖」 「恐怖?」
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