第五章 少女に行き場は無くて

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 それから話題も無くなり、しばらく二人は黙ったまま歩き続けた。風の唸りは段々と大きくなるにも関わらず、延々と続く。果たして、果てがあるのか。 ――いや、その考えが不味いんだろうが。いい加減に気が付け  脳内でその考えを振り払った――その瞬間、道が開けた。 「あれは?」  百メートル先か、五十メートル先か、距離感覚すらも鈍ってしまいそうな程に薄らとだが曲線を描く道の先に、広がる空間が見えた。  ホッとしたのも束の間、一真の隣に立つ日向の左手が、赤く燃え広がる衣を広げていた。瞬間、洞窟内の闇が晴れる。遅れて、一真も破敵之剣を抜いた。懐剣が一瞬にして、剣へと早変わりし、金色の光が赤の光と混ざる。  照らし出された岩壁に幾つもの人影が浮かび上がっているのが見えた。広場への入り口に、ぽつぽつと立つあれは、人間ではない。 「見つけた」 「見つけたぞ」 「我らを眠りより呼び覚ました者ども……」  直感は正しかった。段々と近づいてくるそれは、土気色の骸のような肌に、落ち窪んだ目、鼻、口。その手に握られているのは血に濡れた宝剣だろうか。実用的な武器ではない事は確かだ。 「まるで、ゾンビ映画みたいだね!」 「冗談言ってる場合じゃないだろう、が!」  真っ先に迫って来た男の宝剣を半歩下がって避け、逆にその脳天を破敵之剣で叩き斬った。男の身体は弾け、その身を構成していた霊気がわっと辺りに散らされる。  日向の動きは、天女のようだった。華麗に、緩急のついた動きで屍人――日向がゾンビと呼んだ――の合間をすり抜け、同時に二人の屍人に焔の帯を巻きつける。  日向がくるっと回ると同時に、拘束されていた哀れな屍人が一瞬にして灰塵に帰す。
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