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日向は自分の戦術が成功した事に、一片の謙虚さも示さず涼しげに笑う。
「どや?」
「日向、後ろだ!」
一真が叫ぶと同時、日向はしゃがんだ。右手を左から右へ広げると、その掌に夕日の空をそのまま凝縮して誂えたかのような扇が具現する。先程の帯を後ろから飛び掛かってきた屍人の身体に巻き付け、同時にその胴に灼熱の扇を叩きこんで、バターを切り裂くナイフのように断ち切った。
日向は涼しげに笑――
「どんなもんだい!」
「だから、後ろぉ!!」
日向の横をすり抜け、一真は破敵之剣を横薙ぎに振るって、屍人が翳した宝剣を叩き落とす。屍人は驚きもせずに土気色の腕を伸ばしてきた。が、一真はその腕も叩き落とし、怯むように下がった屍人を追い込むように突進し、胸板を貫いた。
「やだなぁ。後ろに誰かいても気配で気が付いちゃうって」
広場にいち早く出ると同時、日向は残りの屍人に向かって行く。左の焔の帯で掴み灰塵にし、右の黄昏染めの扇が閃く。
屍人は闇に紛れ、後から後から湧いてくる。
――どこからだ
目を凝らしてみると奥、丁度広間の真ん中に位置するだろうか、井戸筒のような物が見える。そこから這い上がるようにして、屍人が登ってくるのが見えた。
五人の屍人が日向を取り囲む。日向は先程、後ろを取られた時と同じように、さっとしゃがみ、間髪入れずに後ろへ倒れ込むように足を伸ばした。日向は身体の合間を抜けて、地面に手をつくと体操選手よろしく飛びあがる。
半秒後、屍人達の武器が宙で交差し――――直後、持ち主を失って崩れ去った。
――凄い
改めて、彼女の戦いぶりを見て、一真は圧倒される。実力の次元が違う。勿論、一真でも彼らを倒す事は出来ただろう。
だが、それはあくまでも個対個の戦いに持ち込めばの話。彼女のように一人だけで、集団を圧倒するような事は出来ない。
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