第五章 少女に行き場は無くて

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「ボサっとしている暇はないだろ。お前が休んでちゃ、式神がその分、苦労するぞ」  冷めた声で天に指摘され、一真は思わず竦んでしまった自分を叱咤する。 ――出来るか、出来ないかで、悩むのは止めにした筈だ  自分に出来る最大限の事をする。一真は再び剣を構えた。金色の光が一層、力強く輝く。 「流石に数が多くてやんなっちゃうね」  一真のすぐ傍に着地し、日向はうんざりしたように呟く。 「あいつらは、何者なんだ?」 「海馬達と出会った時、常社神社で、月とあなたが戦ったのと同じ。霊魂の持つ負の気が化けて、物の怪となったみたい」  新たに飛び出してきた屍人が、宙を滑るようにして肉薄してくる。が、宙を翔ける焔の帯に絡め取られて燃え尽きた。 「というか、大人しく眠っていたのに、無理矢理呼び出されて不機嫌になっちゃってるのかな?」  それを聞いて一真は思わず唇を噛んだ。ここにいる連中は全て、影夜の術で呼び出されたということか。常社神社で起きた事を思い出し、一真は危うく自制を失いかけそうになる。 死者を弄び、生者を惑わす。許される筈が無い。だが、彩弓の顔が脳裏に浮かび、内から吹き出しそうになる闇をどうにか押し止めた。そうして、改めて広場を見、一真は何かこの場に違和感を覚える。言葉では表現するのならば、胸騒ぎと言うべきか。  日向もそれは感じ取ったらしい。屍人は相変わらず次から次へと井戸から溢れてくるものの、彼女は彼らに対する攻撃を止める。 「一真君、こいつら、これ以上相手にするのは、止めた方がいいかもしれない」 「なんでだ。ボウフラみたいに湧いてくるからか?」  日向は彼女にしては珍しく、冷や汗を垂らしていた。先程浮かべていた笑みも、冗談も無い。 「数で圧倒し、隙を見て禁忌の術、或いはそれによって造られた作品を脱出させる――それが敵の作戦だと思ってたけど、どうもそれは、読み違えだったみたい」
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