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何十にも増えた敵が、二人を取り囲む。同時に、彼らの足元で土気色の塊が溜まっているのが見えた。それは良く見ると、千切れた腕の破片、焼き焦げて殆ど灰の塊でしかない顔。一真や日向の攻撃で倒れたと思われた屍人達の欠片だ。
その後ろに立つ屍人達が苦痛に満ちた声で何事かを囁き合う。ぐらっと揺れる視界。心臓を絞られるかのような痛みに一真は、思わず膝をつく。どうにか意識を保とうと顔だけは上げ続ける。屍人達の姿がぼやけ、次の瞬間、真っ白な光と共に弾けた。
「え……?」
痛みは嘘のように無くなっていた。引いたのではない。最初から存在していなかったと思わせる程の唐突さ。屍人は一人残らず消滅していた。こんな事が出来るのは、一真が知る限りでは恐らく一人。
「一真」
耳にすっかり馴染んだその声に、一真は振り返った。
「月……」
長く清楚な黒の髪、透き通った珠のように白い肌、そして薄い仄かな紫の水晶のような瞳。ここにいる筈の無い少女に、一真と日向は何と声を掛けていいのか分からずに、戸惑う。
「ごめん、やっぱり心配で来ちゃった」
「……やっぱり?」
一真はその言葉に落胆を覚えずにはいられなかった。とすると、彼女はあの戦いを見ていたのだろうか。
自分の危なげな戦いぷりを。それでいての、発言か。反論の余地も無いが、同時に失望もする。それが、自分に対するものか、月の自分への信頼の無さに対してなのかは、判然としなかった。
だが、月は一真の言葉を否定するように、頭を振る。
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