第六章 少女は夢の中にて光りて

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†††  内なる幽闇の抑制――それは単なる精神論の話ではなかった。胸にぽっかりと開いた闇と、その中心で開いた眼を見れば、嫌でも実感させられる――もしも、実感するだけの心が、一真に残っていればの話だが。  幽闇の奥底から響く声は、この洞窟に先程までいた亡霊の数の比ではない。これは前にも一度経験している。もっと幼い時、月と共に、封印から解き放たれた物の怪を追ったあの時、物の怪に襲われた時に。  一真は物の怪に憑かれた。月が気に病み、一真を遠ざけようとした一番の理由でもある。だが、実際には違った。一真は物の怪に憑かれて等はいなかった。一真が物の怪を取り込んだのだ。  その事実を、叔父――博人が明かし、彼との戦いに勝利した後、春日刀夜は、一真がその力を抑え込めるようにと鍛錬を課したのだった。  だが、それも今となっては、意味を成さない。 「――止――戻――」  破敵之剣が、何かを発する。恐らくは言葉のような物だが、今の一真には霊気を通して作られた記号のようにしか伝わらない。幽暗の闇はその剣の刃をも浸食し、黒一色に染め上げていた。  そして、本来の破敵之剣としての効力すらも上書きされていた。闇へと幽し閉じ込める力に。 「素ばらしいわ。それがあなたのほん当の姿なのね」  沙夜の言葉だけが、不自然なまでに――鮮明に、聞こえる。ただし、それに対して何か言葉を返せはしない。あえて、返すとすれば昂る感情か。だが、それすらも正確な表現ではない。今の彼は感情で動いてはいない。  感情は、彼の中に眠る闇を解き放った鍵に過ぎない。今の彼は、そう内にある扉、そこから吹き出し、暴れ回る行き場の無い闇に動かされていた。  そして、感情の名残ともつかない物が、一真に目の前のこの少女が標的である事を告げている。
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