第六章 少女は夢の中にて光りて

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「――は、――い」  式神の声が、背後で叫んだのを、霊気の流れとして感知する。だが、一真は止まらない。  夜色に染まった剣を一閃する。刃は通ったその空間そのものを斬り裂き、闇へと還元しつつ、沙夜へと迫る。  沙夜は躱さなかった。その肩に刃が喰いこみ、容易く左腕を切り離した。左腕が刃に呑み込まれて同化される。だが、沙夜自身はまだ生きている。完全に躯を取り込まれる事無く、平然と立ち、挑発するように笑んだ。 「どうしたの? ちゃんと、当てないと私の全てを手に入れることは、で来ないわよ?」  だが、一真はそれ以上動かなかった。内なる闇に呑まれてなお、彼は彼女を斬れない。いや、斬らない。 「ぉぁ……ぃ、ぁあぅぁ」  釘を打ちこまれて固められたかのように、重い口を上下に引き剥がすようにして動かし、一真は告げた。 「あら、そう。それは良かったわ。で、どうするの?」  一真の必死の言葉に心を打たれた様子も無く、彼女は嗤う。斬られた肩それが先からボロボロと崩れるのも気にせずに。闇に還元されるのも厭わないというように。 「こうするに決まっているでしょ」  不意に聞こえたいつもと変わらない、いつも聞き慣れたその声に、一真は闇に囚われていた事すらも忘れたかのように振り向いた。  その少女と目が合ったその瞬間、闇は光に呑まれた。  少女を中心として真っ白な光が、上に下に左右に前後に、環状を描きながら広がっていく。光は一真から吹き出す闇を焼き、天の身を蝕む闇を灰へと変え、そして沙夜を喰らい尽くした。
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