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「馬鹿!!」
耳に叩きつけるかのような声だった。真っ赤な髪を紅蓮の如く逆立て、日向は容赦なく、一真を地面に引き倒した。
「なんで、それを本人に言ってあげないんだよ!!」
ぐっと捻じ込まれた拳が、一真の胸を締め上げる。息が詰まり、声を上げる事すら許されない。だが、そんなものは肉体的な苦痛にしか過ぎない。彼女の胸を締め付けている痛みに比べれば。
「こんな、こんな、心を投影したに過ぎない紛い物なんかに、言って……」
「ごめん……」
一真の顔に真珠のような涙が零れ落ちた。その涙は不思議と温かく、開きかけた闇はいつの間にか消えていた。
「何に対して謝ってんの?」
「俺が馬鹿だった。そのせいで、月とそしてお前も傷つけた」
「ふん、私を誰だと思ってんの? 傷ついたりなんかしない。私は人間じゃないもの」
そのどこか突き放すような言葉は、日向自身に向かっているようだった。
「だったら、あれは何だ。あの――お前が紛い物だと呼ぶあれは」
未だ倒れ伏す少女。日向は流石に動揺はしなかったが、不貞腐れたように指差された方を睨みつける。
「あれが、俺の心だけを投影したものだったら、もっと都合のいい言葉が出てきた筈だ。俺にとって心地の良い慰めの言葉とかな」
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