第六章 少女は夢の中にて光りて

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「ふん――」  日向は短く鼻を鳴らす。真っ赤な瞳に溜めた涙を押しつぶすように、瞬きする。 「一真君は、自分を卑下しすぎだね。君はそこまで甘くない」  馬鹿だけど、と付け加える。一真は苦笑した。一言余計だとは言えなかった。まさにその通りだと、思う。 「確かにお前は人間じゃないかもしれない。だけど、お前は月が好きなんだろ? 人間だからとか、式神だからとかじゃなくて。お前は日向だ。」 「じゃあ、一真君はどうなの?」  自分は……、いや考えるまでもない。彼は契を結んだ。 「俺は月が好きだ。だから約束した――」  肌身離さず持っていた折鶴を懐から取り出す。月を救い出したあの時、これは月と一真を結んだ。今もまた結んでくれはしないかという希望が脳裏にちらついた。だが、そんなことは出来ないと、分かっていた。自分の口で伝えなければいけない。 「ほんと、一途だよね」  日向は羨望を抱くように、その折鶴を魅入った。一真は気恥ずかしそうに、しまい直した。 「その、こんなこと言うと信じて貰えないかもしれないが、俺はお前の事も好きだよ」  日向は驚きの余り、表情を切り替える事すら出来なかったようだ。ただ、口だけが間抜けにぽかんと開く。顔面に突然パンチを喰らった方が、まだマシな反応をするのではと思う。何をどうやったのか、日向は器用にも口を開いたまま問う。 「それは……、月を押しのけて私が一真君を独り占めにしてよいと、そう解釈しても――」 「どういう解釈だよ……ま、待てそんな悲しそうな顔をするなって!!」 「え、だって――」  むくりと、二人の前で少女が立ちあがった。髪の合間から覗く瞳と肌。だが、それは月のものではなかった。 「一真君、これが奴の正体」 「物の怪か? だけど、一度も攻撃なんて」 「目に見える敵意よりも、恐ろしい攻撃方法ってのはいくらでもあるんだよ。そのせいであなたも私も傷つけられた」
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