第六章 少女は夢の中にて光りて

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 日向の手から、再び紅蓮の扇が生まれ出でる。だが、先程の沙夜擬きの眩惑から一真を引き戻すのに、相当の霊力を使ったようで、どこか色褪せている。日向自身も余裕は残っていないように見えた。いつもの生意気な笑みが強張っている。 「悪い、俺があいつに支配されちまったから。余計な力を使わせて」 「ふふん、そいつは自惚れだね。これくらい、海馬や霧乃は予想済みだった筈だよ」  それ以上は謝るなと、言外に言われているようで、一真は引いた。注意を物の怪へと移す。  目の前に立つ少女は何者だろうか。彼女もまた、影夜によって呼び起こされた霊魂である事は確かだろう。一真と日向の思考から月の幻影を映し出したその力と言い、霊魂ながら只者ならないと、一真は見た。 「どうして、わたしなの? どうして、わたしが贄なの?」 「贄」それが、何を意味するのか、彼女がどんな死を遂げたのか。一真は瞬時に悟った。日向が苦虫を噛み潰しぎりぎりと歯を軋ませた。 「どうして殺すの」  唐突に、息が詰まる程のどす黒い殺気が少女の口から発せられ、一真と日向は飛びのいた。大地が呼応するように震え、少女の姿が薄れていき、消えた。  だが、まだいる。自滅してくれたわけではないのだ。一真は気配が追えず、忙しなく首を振るう。対して日向は、澄ました顔で目を瞑り、耳を傍立てていた。 「落ち着け。そうやってる内は、現れては来ないぜ」  天の助言に従い、一真はその場で立ち止まった。天から霊気が流れ込み、それを自身の霊気と同調させる。  碧との修行では、“隠形”の術と言ったか、それを見破る鍛錬を続けた。そして、それを実戦で活用できる鍛錬を。だが、鍛錬の中では、殆ど成功していない。  実戦形式の戦いでは全く―― ――下だ!  本能がそう告げ、一真は後ろへと退いた。真っ白な手が床をすり抜けて、天を仰ぐように伸びる。助けを乞うように。
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